フワ フワ フワ・・・
身体が徐々に目覚めてくるのが心地いい。
まるで夢の中を漂っているようだ。
こんな気分を味わうのはいつ以来だろう。
朽木で優しい母と姉、強くて尊敬できる兄に守られていた子供の頃以来だ。
練を守るように後ろから抱きしめてくれるたくましい胸、腰に回された力強い腕。
そして髪を梳く優しい手・・・
もう少し惰眠を貪りたい、と再び目を閉じる。
フワ フワ フワ・・・
「龍・・・」
心地好い眠りの訪れに意識が跳びかけた時、練は無意識にその名前を口にした・・・
髪を梳いていた手の動きが一瞬止まり、だが次の瞬間何事もなかったかのように再び動き出す。
一気に覚醒した。
自分を抱きしめているのは斎藤だ。
昨晩二人でここに来たのだ。
もし今自分が斎藤の名前を呼び、その胸に顔を埋めればこの先ずっとこんな穏やかな朝を迎えられるだろう。
酒や薬に頼らず、安心して眠れるだろう。
子供の頃のように・・・
けれど・・・
練の口に自嘲気味の笑いが浮かんだ。
自分が欲しいのはやはりあの男だけなのだ。
鈍感で残忍で卑怯なあの男・・・
気がつくと頬に涙が伝っていた。
顔が見えないはずの斎藤なのに器用に指で練の涙を拭った。
練は眸を閉じた。
もう涙が零れないように。
By ひろりん