mia様からの Treasure  


■ cat ■



麻生は息の上がっている練の頭を、
同じようにまだ肩で息をする自身の胸に宥めるように引き寄せた。
練は気怠い感じで麻生の肩に手を置くと顔を埋めて、
呼吸を落ち着かせる事に集中しているように見えた。

練が事務所に入ってくるなりソファになだれ込むと半裸のままで事に至っていた。

『全く…お前はいつも性急過ぎる』
「言ってろよ、自分だって楽しんだろ」

麻生は仕方の無い奴だというように練の頭をくしゃっと撫でると半身を起こした。
テーブルに手を伸ばしてハイライトを一本取り出すとソファに深く腰を掛け火を付けた。

練はまだソファで横になったまま。
前をはだけたシャツだけをその身に纏っている。
そんな姿を見て今更ながら淫らな自分達だと何とも言えない気分が麻生を襲ったが、
そういう練の姿を艶めかしいと思う自分を否定する気にもなれない。

練は身体を少し動かし肘掛けに頭を預けると、麻生の膝に長い足を乗せて来た。
機嫌が良いのか組んだ足先は何だかリズムを刻むように小さく揺れている。
麻生はその足首を軽く撫でながらひとつめの煙を吐き出した。

やがて足先がその動きを止めると訝しげな顔で練は言った。

「龍、ペットでも飼う気?」

練は突拍子も無い話をいつも唐突に始める。
麻生は苦笑しながら『何の話だ?』と言った。

「昨日ペットショップの子猫を通りからガラス越しに眺めてただろ」
『いつでも何でもお見通しなんだな』
「あんたの事はね、で何?猫でも飼うの?」
『飼う訳ないだろ、自分が生きて行くのがやっとなのに、
ペットなんか飼う余裕なんて有るか』
「それにしちゃえらく熱心に眺めてたよな、幸せそうに微笑んで」
『お前が雇っている人間はやけに細かく報告するんだな』

「俺が見たんだけど、偶然」
『何だ、そうだったのか、声をかければ良かったのに』
「何か頭に来た、俺にもあんな顔見せた事無い」
練は完全に拗ねた様子でその柔らかい頬は膨らんでいた。

麻生は練を抱き締めたい衝動を抑えるのに必死で、からかうように言ってみた。

『冗談だろ練、子猫に妬いてるのか?』

“自惚れてんじゃねぇよ”とよく聞くセリフが練から返って来るのを待ったが、
練は無言のまま踵で麻生の脇腹を軽く蹴った。

麻生は自分の気持ちに坑がう事を諦め、右手で練の頬を包んだ。
そして、その尖った唇に口付けると同時に心の中で呟いた。

“あの猫、お前に似てたんだよ”



                                

    2009.9.13

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