「とにかく、お帰り」
「ただいま」
練は、無邪気に笑うと、ここに座れというように、ソファをぽんぽんと叩いた。
長いお勤めを終えてきたのだ。
俺の天使の御帰還だ。
今日くらいはどんな我が儘も聞いてあげよう、と心に決めた。
隣に腰を降ろしたと同時に練が抱きついてきて、柔らかい唇が触れた。
何も言わず、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっと三度触れるだけのキスをされる。
「やっと、帰って来れたな、ここに」
何の言葉を返す間もなく、練の熱い舌が入り込んできた。
息もつけぬほど、今度は、噛み付くようなキスをされる。
そして、深く、強く、何度も、何度も。
待っていたのだ。
この瞬間を。
悲劇が幕を降ろしたあの時、
あの車の中で話た時からずっと。
キスをしながら、練の手が、俺のシャツのボタンを器用に外していく。
「ここでか?ベッドに行こう」
「もう、待てない、一分一秒も。早く、早くぅ・・・」
練が、俺のベルトに手を伸ばす。
その掌をそっと握り、耳元で囁く。
「向こうの方が、おまえをたっぷり可愛いがってやれるからな」
練の耳朶が、ぽっと赤く染まった。
「ホントに?」
「あぁ、俺だって、待ってたよ。ずっと、ずぅ〜っと」
練のえくぼにそっとキスをして、俺は練を抱き上げた。
「さぁ、お姫様のご帰還だ。お疲れでしょう?
どうぞ、ベッドでごゆっくりおくつろぎください」
「疲れてはいないけど、そーとー、溜まっているからな。覚悟しろよ!」
お姫様抱っこをすると、俺の首に手を回し、足をバタつかせて、ほっぺをぷっくりと膨らませた。
そんな仕草をすると急に幼く見える。
堪らなく可愛い。
いつまでも、この顔を眺めていたかったが、ほんの数歩で、仕切りの向こうのベッドに着いてしまった。
そっと、ベッドに横たえて、靴を脱がしてあげる。
キスをしながら、互いの服を剥がし合う。
一分一秒、早く抱きしめたい。
一分一秒、早く繋がりたい。
爆発寸前の互いの熱を、早く開放したい。
懐かしい、甘い香りに包まれて、
至福の瞬間を登りつめる。
あぁ、やっと帰って来た。
俺の腕の中に。
もう、離さない。
離したくない。
ぎゅっと抱きしめ、心の中でそう呟いた。
練は自由奔放に、俺の腕の中で、暴れまくった。
安いベッドが、ギシギシと、情けない音を立てて軋む。
壊れてしまうのではないかと思う程に、練は飛び跳ね、踊るように淫らに、身体をくねらせる。
どんな仕草も、何もかもが、愛しくて堪らない。
ろくな言葉も交わさず、気の済むまで、互いを貪り合った。
これからのこと、考えなくてはならないこと、やらなくてはならないことも沢山あるけれど、
今このひとときだけは、何も考えず、只、練の甘い匂いに包まれていたかった。
「お帰り」
「ただいま」
優しく、囁きあう。
始めよう、
もう一度。
二人で、
ここから。