天使の羽



柔らかい練の髪を梳きながら、甘い匂いに包まれる。

一夜限りの奴や接待の相手なんかとした後は、すぐに煙草を吸ってしまうし、
好きな女と寝た後だって、しばらくは、我慢するけど、結局は吸いたいのだ。

でも、練は違う。
煙草よりも、練の匂いを吸いたい。

練にばれない様に、そっと、そっと、音を立てずに練の匂いを嗅ぐ。
この匂いに包まれていると、身も心も穏やかになってくるから不思議だ。
浮世のことは何もかも忘れ、まるで天空へと飛ばされたような気になる。
包まれて、
飛ばされて、
また、戻されて、
もう、何度も果てたのに、まだ、まだ、足りない。

初めて、練を抱いた時は、本当に驚いたものだ。
以前、何かの歴史小説で織田信長もそうだったらしいと、読んだことがあったが、
まさか本当にそんな人間がいるとは思ってもいなかった。

ーーー 恐ろしく頭が良くて、世界を征服できるほどの勇気がある。
     でも、短気で凶暴・・・
     白檀の甘い匂いの・・・危険な男・・・

しかし、そんな言い伝えとは程遠く、練はまだ幼い子どもの様にあどけない顔をして、
俺の胸に頬を寄せながら、掌をこちょこちょと動かし、可愛い悪戯をしてくる。

「ん・・・」

我慢出来ずに、思わず声が漏れてしまい、悔しくなる。
俺をこんなにも翻弄出来るのだから、確かに危険な男なのだろう。

「馬鹿野朗、そんなことしたら・・・
また・・・ やっちまうぞ」

「してもらいたいから、してるんだけど」

「明日、早いんじゃないのか?」

「何を今更。次いつ来るかも約束してくれないくせに。
そんなこと言うか?普通」

「上等だな。覚悟しろよ。寝かせねえからな」

「望むところ」

そう言って、練が俺の耳朶に噛み付いた。

俺は、勢い良く、練をひっくり返す。
桃のように柔らかい尻を揉み、
腰骨から背骨にそって、唇を這わせる。


一瞬・・・

何かが見えた。

それは、
練の背中に・・・

俺は、ぱちぱちと瞬きをした。

何だろう・・・今のは・・・?

白い羽のようなものが・・・

幻を見ているのか・・・?

やはり、
甘い匂いの危険な男は、
天空から舞い降りた天使なのだろうか・・・・

「ふっ・・・」

そんなことを考える自分が可笑しくて、可笑しくて、笑いが込上げてくる。

「はっは」

「何笑ってるんだよ!早くキテよ!」

練も、振り返って笑った。


練が、
たとえどんな危険な奴でも、
惑わされてもいい、
こんなに可愛い天使になら、
と、思った俺は、
たぶん相当イカレテイル。

もう、お前を離しはしない・・・

朝までずっと、

死ぬまでずっと。



                                

2009.4.26

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