俺を見て 



純さんは、全然俺に甘えてくれない。


俺は純さんより一回りも年下で。
そりゃあ、頼りがいがないとはわかっているのだけれど。

でも、俺は純さんにもっともっと甘えてもらいたいんだ。
いつも、俺ばっかり甘えているだけで、
純さんが甘えてくれないのは、ちょっと不公平だと思う。

プライドが高い純さんのことだから、
直接言葉で言えないってこともわかるんだけど。
でも、俺はやっぱ、純さんに、ああして欲しいとか、こうして欲しいって、言ってもらいたいんだ。

もう、数え切れないほど抱き合ってきたというのに、
純さんは、いつも、初めて抱かれるように恥らう。
そして、必死に喘ぎ声を抑えている純さんはとっても可愛いんだけど。
でも、「純さん、可愛い」って言うと、思いっきり殴られるから、言いたくても言えない。

純さんの声が聞きたいよ、俺。


だから、今日は、ちょっと、いつもとは違うやり方で攻めてみようと思う。
もしかしたら、すごく怒られてしまうかもしれない。
俺にとっては、大きな賭けだ。

俺は純さんがシャワーを浴びている時に、それを純さんのデスクからそっと取り出した。
それは、純さんの大事な商売道具で、今まで触らせてもらったことすらないものだ。

初めて手に取ってみた。意外と、重い。
うまく使えるのか、ちょっと、自信がないな。
普通に言って、かけさせてもらえるとは、とても思えないし。
って、いうか、絶対に無理だろ。

どうやって、それを純さんにかけられるのか、もう一度考えてみた。
う〜ん・・・ああしている間に・・・大丈夫かな・・・?
隙を狙って、一瞬に勝負をかけるしかない。
俺は何度か動かして、タイミングを計った。

バスルームの扉が開く音がした。
俺はそれを慌ててベッドのマットの下に、鍵を枕元の下に隠しておいた。

純さん討伐大作戦!開始!



「純さん、疲れているんでしょ? 俺、マッサージしてあげるよ。さあ、ここに寝て」

そう言って、純さんのバスローブを脱がせて、ベッドに無理やりうつ伏せに寝かせた。
俺は純さんの腰の下あたりに跨り、肩から腰にかけて、背骨に沿って、ゆっくりとツボを押していった。

「んん・・・」

純さんが気持ちよさそうに、小さく息を吐いた。

「おまえ、うまいな」
「そう? どこが気持ちいいか言って?」

俺が親指に力を入れてぐいっと押すと、純さんは気持ちよさそうに目を細めた。

「ああ、そこ、そこがいい」

純さんのお尻を見ただけで、すでに、理性は吹っ飛びそうになっている。
まだだ、焦っちゃだめだ。
そう、俺は自分自身に言い聞かせた。
そして、丁寧に、丹念に、愛撫、いや違う、マッサージを続けた。
次第に純さんの身体はリラックスして、力が抜けてきた。


「あれ、ここ、どうしたんだろ?」
「ん?」
「なんか怪我でもした?」
「どこだ?」
「ちょっと、赤くなってるよ? 痛くないの?」
「別に。そんなとこぶつけた覚えはないけどな・・・」
「ほらここだよ」

そう言って、俺は純さんの両手を腰の上あたりに導いて、純さんの身体を撫でてみた。
「痛くはないんだけどな」
純さんが、不思議そうに自分の腰を触っている。

よし!今だ!

俺は、布団に隠していたアレをそっと引っ張り出して、純さんの両手にガチャリとかけた。

「おまえっ! コラッ! 何するんだ」

やった! 大成功だ!
両手の自由がきかなくなった純さんは、身体を捩って、俺を睨んだ。

「ふざけるな。早く、外せ」
「あ、俺、鍵がどこにあるのか知らないし」
「馬鹿野郎、同じ引き出しに入ってだろう?」
「ねえ、純さん、たまには、いいでしょ? こういうプレイも」
「嫌だね」
「純さん、こうでもしないと俺の言うこと全然聞いてくれないし」
「いい加減にしないと・・・」
「だって、純さん、俺に甘えてくれないんだもん」
「ふん、何が甘えるだ。女、子どもじゃあるまいし」

俺が純さんのものをゆるゆると擦り上げると、俺の手のひらの中で、あっという間に質量を増していった。

「ねえ、純さん、もっと素直になって、ね、俺に甘えてよ」
「くっ・・・おまえ・・・・」
「今日は俺の言うこと聞いてよ」
「くそっ・・・・何を・・・・しろと・・・・」

俺が手の動きを早めると、純さんの先端からは、透明な雫がとろとろと溢れ出した。
「俺のこと、欲しいって言って、俺不安なんだよ。純さん、何も言ってくれないから」
「そんな・・・こと・・・いちいち・・・言わなくたって・・・・あぁっ・・・」

「ダメだよ、純さん。ちゃんと目を見て。どうしてもらいたいのか、きちんと言って」

眉間に皺を寄せ、唇を真横に引き結び、快感に酔いながらも、決してそれを言葉に出そうとはしない。
プライドがそれを許さないのだろう。
「純さんったら、ほら、もうこんなになってるよ」
今にもはちきれそうなくらいに固く屹立した純さんのものが、 俺に向かってぴくんぴくんと跳ねる。
純さんが潤んだ瞳で俺を見上げた。
「くぅっ・・・」

ああ、もう、堪らない。純さんの顔ったら、壮絶色っぽい!
この後、どんなに怒られても、どんなに殴られてもいい。

早く、早く、純さんと繋がりたいよ。

「ねぇ、純さん、純さんの声を聞かせてよ」
「そんなこといいから・・・はゃっ・・・」

純さんの熱い舌が、いきなり俺の口に進入してきた。
息もつげない程、強く絡めてくる。
言葉にはならないこのキスが答えなのか。
もう、純さんたら、本当に恥ずかしがり屋なんだから。

ああ、純さんのキスは、本当に上手で、気持ちがいい。
これ以上我慢するのは、不可能な気がしてきた。

あ、もう、作戦失敗かも。
俺は、白旗をあげた。

ごめんね、純さん。

枕元の下に隠しておいた鍵を取り出し、手錠を外した。


殴られると覚悟して、歯を食いしばり、目を瞑ったが、
いつまで経っても、痛みは感じられなかった。

そっと、目を開けてみると・・・

純さんは体を横に向けて、俺の方は見てくれなかった。

俺は純さんの向いている方に体を寄せて、
純さんの顔を覗き込んだ。


「純さん、ごめんなさい」
「謝るな」
「だって・・・」
「すまないな・・・俺も悪いんだから、おまえも謝らなくていい」
「純さん!」
「ぐだぐだ面倒くせえんだよ。もういいから、早く続けやがれ。
ったく、ずっと、このままなんだぜ?」


純さんは恥ずかしそうに笑って、俺とは目を合わさないまま、
俺の下半身に昂りを摺り寄せてきた。

ぷるりと触れた純さんのそこから、確かな熱が伝わってきて、泣きそうになる。
うっすらと色づいた頬を見ていたら、もう何の言葉もいらなくなった。

この温もりがあればいい、
俺の腕の中にいてくればいい。

只それだけで、十分幸せなんだ、と思った。


                         

        2010.6.10

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