Special recipe  2 




22日になった。
食材はすべて昨日のうちに買い込み、今日は午前中に、予約しておいたケーキを若草まで取りに行った。
誠一はほとんど甘いものは食べないが、唯一ここのケーキだけは例外だ。
なぜだか知らないけど、お土産に買って来るのは、いつもここのケーキだけだったから。
誠一には、いい歳して馬鹿みたいだと笑われると思うけど、
ちゃんと「せいいち君 おたんじょうびおめでとう」と名前も入れてもらった。
蝋燭も、太いのを4本、細いのを4本、付けてもらったし。

誠一は、
「誕生日プレゼントなんて何もいらないから。
まともなものを食わしてくれればそれだけでいい」と言った。

確かに、オレは今まで誠一にすでに数え切れないくらいのお金もあげてるし、
誠一は、アクセサリーもあんまり付けないし、
服のセンスもオレとは合わないと言ってるし、
酒は、いつも高いもの飲んでるし。
本当にいくら考えても、誠一にプレゼントしたいものなんて何もなかった。
だから、今年は、この皐月ねえさんのレシピで、
誠一の好きな料理をプレゼントできるだけで、オレは本当にうれしかったんだ。
念のために、あれからもう一度、練習もしたから、たぶん・・・大丈夫だと思う。

食材とケーキと酒とエプロンを全部車に詰め込んで、
誠一のマンションに向かった。

「ねぇ、誠一、でき上がるまでに、結構時間かかるからさ、
ちょっと、その辺ぷらぷら散歩にでも行って、時間潰して来てよ。
何作ってるのか、見られたくないしね〜」
「ばかやろう、俺は、今日は一歩も外に出ないんだよ」
「どうして?」
「誕生日を命日にしたくないからな」

誠一は笑って、オレの頭をぱしりと軽く叩いたが、
オレの心には、“命日”という言葉が、ぐさりと突き刺さった。

「誠一・・・」
「ま、死んじまったヤツには、わかんねえことだけどよ、
後に残されたもんには、嫌だろ?」
「う、うん・・・」

オレは、返す言葉が見つからなかった。

「じゃ、書斎で本読んでるからな。
できたら、声かけてくれ」

誠一は暴力も振るうが、根は優しい人間なのだ。
自分のことよりも、人のことばかり、考えているような。
大きな優しさで人を包み込むことができるような。
そして、その大きな腕の中は、とても気持ちがいい。

でも、その中に人を入れる時は、一人だけ。
その一人だけを、強く包み込む。
入った人には、誠一以外、何も見えない二人だけの世界。

たとえ、誠一がその世界をいくつ持っていようが、
それは構わないのだ。
自分と誠一の世界がいつも輝いていれば。

今日は、最高の誕生日にするんだ。
オレと誠一、二人だけの誕生日パーティなんだから。

さあ、始めよう!

エプロンをして、
気合を入れて、
オレは、包丁を握った。

皐月ねえさんのレシピは、完璧に頭に入っている。
分量も、順番も、味付けも。

野菜を切る。
下ごしらえをする。
酒も冷やした。
鍋に火をかける。
焼き物はオーブンにセットする。
揚げ物も揚げた。
サラダや、生もののつまみも作った。

大丈夫、何もかもが、順調に進んでいる。

少し余裕ができたので、誠一に中間報告でもしようかと書斎のドアをノックしたら、返事がなかった。
そっとドアを開けて覗いたら、誠一はデスクに突っ伏したまま、転寝していた。

誠一、疲れているのかな・・・
そういえば、最近、何か面倒な問題が起きているって言ってたっけ。
寝室から毛布を取ってきて、そっと肩にかけておいた。

ブイヤベースの良い香りがキッチン中に広がってきた。
味見をする。

ん・・・!?

あれ?

何かちょっと・・・

物足りないような気がする・・・
おかしいな。
レシピ通りに作ったのに。
何か入れ忘れたわけじゃないのに・・・
時計を見る。
時間がまだ足りないのかな。

でも、レシピ通りの時間で、火を止めた。
あまり長く煮込むと、魚介類が固くなってしまうから、
この時間以上には、煮込まないようにと言われていたし。

もう一度味見をした。
やっぱり、ほんのちょっとだけ薄いかも。
どうしようかな・・・
塩を少し足してみようか・・・?

う〜ん・・・
でも・・・

転寝していた、誠一の寝顔が目に浮かんだ。
疲れ気味の今の誠一には、
このくらいの味の方がいいような気もする・・・

よし!これで、完成!

テーブルに、でき上がった料理を並べて、ケーキを中央に置いた。
あとはプレゼントの用意をして、誠一を起こしに行くだけだ。

誠一は、何もいらないって言ってたけど、
だって、料理のレシピは、全部皐月ねえさんのものだから。
やっぱり、オレからもプレゼントを贈りたいと思ったんだ。

それは、オレだけにしかできないスペシャルレシピ。
誕生日特別バージョンなんだぜ。

オレはエプロンを外し、服を脱ぎ、
そして、もう一度、エプロンだけを身に着けて、書斎に向かった。





                                

    2009.10.31

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