Sweet White Christmas  2 




それから、結局一時間以上も並んで、やっとのことで、ケーキを手に入れることが出来た。
並んでいる途中にも、何度も誠一から電話は入っていたが、まだ並んでいるのかと心配させたくなくて、
「運転中、渋滞中、もうすぐ着くから」とだけ、短いメールを送っておいた。
帰りは首都高に乗らないで裏道を通った。思ったよりも混んでなくて、これならスムーズに帰れそうだった。

話せないとわかってからは、誠一からメールが何通も届いている。
「まだか?」
「今、どこだ?」
「そんなに混んでいるのか?」
あの誠一がどんな顔して、こんなメール打ってるのかと思うと、
可笑しくって。
でも、嬉しくって。
メールの一文字、一文字が愛しくなってくる。
信号待ちの時間に、返事を打つ。

「もうすぐ着くから」
と、さっきから同じ言葉ばかり返していたら、
「蕎麦屋の出前じゃねえんだ、何度も同じこと言うな」
「大丈夫だって。安全運転してるからさ!」
「気をつけろよ」
と、また誠一から返事が届いた。
短い言葉のやり取りに、こんなに胸を弾ませている自分が不思議に思えてくる。
これも、聖なる夜の魔法なのかもしれないと、練は笑った。

「誠一って意外と心配症なんだね」
と、打っていたら、赤坂に着いてしまった。
これは、自分の口で伝えようと思った。

ケーキの箱が入った紙袋を持ちながら、誠一の部屋番号を押して、オートロックの扉を開けてもらう。
エレベーターを降りたら、目の前に誠一が迎えに出てくれていて、練はびっくりした。
「遅かったな」
「うん、思ったより時間かかっちゃった」
「だから、若いのに行かせればよかったのに」

誠一が玄関のドアを開け、先に練を入れた。
「はい、おまたせ〜 誠一の大好きな若草のケーキだよ〜」
練が微笑みながら、大きな赤いリボンがかけられたケーキの箱を誠一の前に差し出した。
誠一は受け取ろうとした時に、練の指先に触れて、その冷たさに愕然とした。
渋滞してるって言っていた。あんなに長い時間車に乗っていて、ヒーターをつけているのに、指先がこんなに冷たいことはないだろう。
そういえば、コートも着ていない。

「おまえ、なんで、こんなに手が冷たいんだ」
「え?そ、そうかな・・・」

誠一は、受け取ったケーキの箱をテーブルの上に置いて、練を抱き寄せた。
ひんやりと冷たくなった練の頬が誠一に触れた。
「練!お前、本当に、渋滞してたのか?身体が冷えきってるじゃないか!」
鋭い誠一に、これ以上嘘をつくのは難しいと練は思った。

「さすがに、誠一の好きな店だけあるよ。
すごい人気の店なんだね。予約してる人も結構並んでいたんだよ」
「悪かったな」
「ううん、だって、料理はほとんど皐月姉さんが作ってくれたし、オレは何にもしてないんだ。
ケーキくらい、オレが取りに行きたかったんだよ」
「そうか、なら、渋滞も嘘だったのか?」
「ごめん」
「俺に嘘つくとはな」
「誠一って意外と心配症なんだね」
「バーカ、おまえに言われたくねえ」

誠一は笑って練の耳たぶを舐めた。
「嘘吐きにはお仕置きをしなくっちゃな」
「え〜腹減った。先に食べようよ。
温めるだけだから、すぐ仕度できるって」
「ダメだ。お前を先に食いたくなっちまった」
「誠一・・・」

ぎゅうっと力強く抱きしめられたら、もう抗うことは出来なかった。
「先にお前の身体を温めてやる。飯はそれからだ」
「うん、わかった」
練はこくりと頷き、誠一の首に腕を回した。

寝室まで抱っこされて連れて行かれ、そのままベッドに押し倒された。
エアコンのスイッチを入れようとして、リモコンを手にした誠一は、ふと窓の方に視線を向けた。

「おい、寒いと思ったら、降ってきたぞ」
「え、本当に?」
練も身を乗り出し、窓の外を見た。

聖なる夜に、天空を飛び回るサンタクロースからのとびきりのプレゼント。
純白に輝く雪がひらひらと舞い降りた。

「うわ〜すっげえ!本当にホワイトクリスマスじゃん!」
「お前が柄にもないことするから、雪が降ったんだな」
「何それ?ひっど〜」
「天下のイースト興業の社長が、堅気の客と一緒に黙って行列に並んだからだ」
「オレも一応堅気の人間なんだけど?」
「ま、この雪も、お前からのプレゼントってことにしておいてやろう」
「プレゼントもらったのに、お仕置きはないんじゃない?」
「雪と嘘は話が別だ。たっぷりしてやるから、覚悟しろよ」

誠一の熱いキスが練の体温をすぐに上昇させていった。


二人だけの聖なる夜は、
甘いケーキの匂いと、
甘い練の匂いに包まれて、
朝まで、幾度も溶け合った。

Sweet White Merry Christmas!!




                                

    2009.12.29

inserted by FC2 system