黒くてこんもりと盛り上がった物が見える。
おい・・・
あれって・・・
もしかしたら・・・
人間なんじゃねえのか?
数メートル手前の所で、それが確かなものへと変わった。
男だ。
ちっ、酔っ払いじやねえか。
こんなところに寝やがって。
面倒くせえ。
ったく、今日は本当についてねえな。
柵を乗り越えた。
月の光に青白い顔が照らされた。
一瞬、足が凍り付いたように動けなくなった。
生気がまるでない真っ白い顔。
何だ、酔っ払いじゃないな、あれは。
もうあの世にいっちまっているのか?
そうだとしても・・・このままじゃまずい。
近くまで行くと、胸が微かに動いたのが見えた。
まだ生きている。
とりあえず、
起こしてやるか。
電車が来たら面倒だ。
「何してるんだ、おまえ」
そう言って、その男を蹴飛ばした。
「ここで何してんだ」
と聞くと、
「始発を待っている」
と、答えた。
やっぱ、死ぬつもりだったのか。
「起きな」
と、言っても起きなかった。
くそっ。
「起きろて言ってんだよ」
と言って、思いっきり蹴飛ばしてやった。
まだ起きない。
頭を引っ張って、起こしてやった。
やっと、立ち上がる。
歩かないので、もう一度蹴飛ばす。
よろよろと歩きながら、やっと線路を出た。
「ついて来い」
土手を登った時、背後を電車が通り過ぎた。
ぎりぎりだったな。
歩道に降りて、その死に損ないの顔を見た。
なんなんだ、こいつ・・・
背中がぞくりとした。
なんて言ったらいいのだろう。
うまく言葉には表せない。
陽の下で見れば、綺麗な面なのだろうが、
暗闇の中で見ると、暗い湖の底に吸い込まれてしまいそうな、
この世の人間とは思えないような顔をしていた。
変なもの拾っちまった。
皐月にでもやるか。