「純・・・純・・・あっ・・・いい・・・そこ・・・」
久しぶりの練の身体は、たまらなく俺を興奮させた。
以前よりも、さらに、妖艶で、
そして、テクニックにも磨きがかかったような気がする。
店には、出ていないといったが、本当に、堅気の仕事をしているのだろうかと、ふと心配になってきた。
練が俺をキツク締め付ける。
ヤバイ。
すぐに、イッテしまいそうだ。
「ああんっ・・・純・・・もう・・・オレ・・・」
「俺もだ・・・」
「嬉しいよ・・・純に会えて・・・」
「うん」
「いい・・・すごく・・・気持ち・・・いい・・・」
おまえ・・・泣いているのか・・・?
瞼を閉じた練の目尻から、すっと、涙が零れ落ちた。
「練」
「ねぇ、もっと・・・もっと・・・純を・・・頂戴・・・」
練の目尻にそっと唇を這わせてやると、
嬉しそうに、目を細めて笑った。
明日が、非番でよかった。
それから、俺は、練から離れられなくなってしまった。
時が経つのも忘れ、
只、ひたすら、練を貪った。
いつ眠りに落ちたのかもわからないほどに。
翌朝、目覚めると、練は、ベッドにはいなかった。
枕元に置いてあった時計を見ると、もう10時をまわっていた。
「明日は仕事は休みだ」と、言ったら、
「じゃあ、オレも休む」と笑っていたのだが。
やはり、出勤したのだろうか?
ゆっくりとベッドから身体を起こし、寝室を出て、広い部屋に入った。
扉がたくさんあって、どこがどこに繋がっているのかも、さっぱりわからない。
突然、正面の扉がパタリと開き、練が入って来た。
「もう、起きたの?休みなんでしょ?
もっと寝てれば」
「おまえまで休んでしまって、本当にいいのか?」
「折角、純に会えたのに、オレだけ、仕事なんて行きたくないもん。
今日は、一日純と一緒にいたいよ」
「ったく、しょうがない奴だな」
「ね、朝ごはん、コーヒーしかないんだけどさ。いい?
おなか空いたなら、何か買ってくるけど?」
「まだ、いいよ。コーヒーだけ貰う」
「昼は、どっか食いに行こうよ!ね!」
それから、練が淹れてくれたコーヒーを飲みながら、他愛もない話をして、ゆったりと過ごした。
俺達の仕事は、非番だって、何か事件があれば、電話1本で本庁に行かなくてはならない。
今日だけは、呼び出しがないことを心の中で祈った。
「純、聞きたいんでしょ?なんで、オレが、こんなところに住めるようになったかって」
「別に、話たくないなら、無理にはいいぜ」
「オレ・・・あの変態クラブでね・・・
すご〜く変なことされて・・・
もうなんだか、何もかもイヤになっちゃてさ。
死のうかと思って・・・線路に・・・寝てたんだ・・・」
ソファーに座っていた俺の膝の上に跨り、練は俺の胸にそっと顔を埋めきた。
きっと、
言葉にも出せないようなことをされたのだろう。
思い出しくもないような、壮絶なことを。
「でね、もう少しで始発が来るって時に・・・
側を歩いていた人に・・・
助けられちゃってさ・・・
死ねなかったんだよね」
「まだ、生きろってことだったんだな」
「ん、どうやったら、生きられるかなんて、考えたくもなかったんだよ。
その時は・・・
早く、この世から、消えたい・・・早く、楽になりたい・・・
それしか、考えてなかった」
俺は返す言葉がすぐには、みつからなかった。
「でもね、その人が、オレに“生きること”を教えてくれたんだ。
だから、こうして、生きていられる」
「人間死んじまう方がよっぽど楽だ。
生きることの方が、ずっと大変だからな。
よかったじゃないか」
「うん、感謝している。その人には。
だから、一生懸命働いて、少しでもその人の恩に報いたいんだよ」
「金を借りたのか?」
「その人には、借りていないんだけど、その人の知り合いに少しね。
でも、もう全部返したよ。純も聞きたいんだろ?この先を」
「どうせ、株かなんかだろう?」
「まあね、そんなところ。
会社作って、株で儲けて、後は、土地をちょっと転がした」
都心の土地を転がせば、数億の儲けが出るご時勢だ。
株もうなぎ登りで、留まることもない。
確かに、練は頭が切れるタイプだったよな。
「ふうん、たいしたもんだな」
「でもね、泡はいつか、弾けて消えるんだよ。
こんな状態は、そう長くは続かない。
ま、株や土地で、儲けられなくなったら、その時は、その時だ。
ちゃんと、商売やって、稼ぐよ」
練の柔らかい髪を梳く。
土地と株か・・・
まともにやっていれば、違法性はないだろうと思うが・・・
練とは、今まで仕事の話なんかしたことはなかったし、
もちろん、俺がデカだってことは、一切言っていない。
「ね、純、また会ってくれるの?
そうだ、携帯持っている?番号教えてよ」
店を通して指名していた時は、客とホストの関係だったから、
携帯番号なんて教えたことはなかった。
でも、もう、番号を交換しないと、
練に会うことは出来ないのだ。
俺は、自分の携帯を練に渡した。
「オレも純のこと色々知りたいよ。
もう客じゃないけど、これからは普通につきあってくれるよね?
友達として」
「あぁ」
俺は、素直に頷いていた。
「接待に行く時もあるけど、遅い時間なら、いつ電話してもいいよ。
電話待ってるね」
練は嬉しそうに、自分の番号を登録してくれた。
「純、もう1回しよ」
練に押し倒された。
それは、とても気持ちの良い重みだった。
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次の日、出勤するとすぐに、捜四の部長に呼ばれた。
「バーターになっちまったけどな、いいネタを仕入れてきた。
最近、韮崎の野郎に新しい愛人が出来たんだとよ。
相変わらず、お盛んな奴だ。
それが・・・面白いことに、愛人っていっても、金の流れは逆だ。
どうも、このイースト興業ってところが、春日の金の出所らしい。
奴は、正式な組員にはなっていないから、企業舎弟ってところか。
これから、しばらく張り付くことになるな」
部長から渡された資料を見て、
俺は、自分の目を疑った。
そこに、書かれていた、名前は・・・
「イースト興業株式会社 取締役社長 山内練」
くそっ!
何で練が韮崎の愛人なんだ?
命の恩人てのが、韮崎なのかよ?
自分の席に戻るまで、頭の中は真っ白になった。
席に戻り、一服吸ってから、もう一度じっくり資料を読み直す。
練、マエがあったのか・・・
ん?世田谷?
この頃だと・・・
龍がいた頃じゃねえのか?
しかも、こんな程度の傷害で、なんで実刑なんてくらったんだ?
ありえないだろう・・・
普通、初犯なら、執行猶予がつくはずだ。
練、いったい、何があったんだ?
無性に腹が立ち、パンと資料を机に投げつけ、側にあった折りたたみ椅子を思いっきり蹴り上げた。
練・・・
待っていろ。
俺が救ってやるよ。
おまえを闇の中から。
“生きること”の本当の意味を、
俺が教えてやるぜ。
練と俺の、
長い長い戦いが、
この日から、始まった。